2018/07/26 12:09

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Basaraのモノづくりは物語から始まります。
2018SSシーズンの物語はCUBA!!
Una belleza delante de Teatro Garcia Lorca
~ガルシア・ロルカ劇場の前にたたずむ美しい人~
 
 
LINDA!!
その麗しきLINDAと会ったのは、Gaiano通りから入った国立バレエ団の公演が行われるバロック建築のガルシア・ロルカ劇場の前の喧騒の中。ソバージュの髪を揺らし、ひときわ腰高が目立つ彼女はエキゾチックな赤を基調とした柄のシルクガウンからスッと伸びた脚が歩く度に覗いていた。胸元から覗かせるアンダーウエアは褐色の肌を引き立たせる光沢の綺麗なピンクともオレンジとも取れる色のLingerieがハリのある胸を包んでいた。香りたつほどに美しいその人は昼間の喧騒を一瞬フッと止めるほど美しかった。情熱的で芯の強さを持った美しい人、まさにLINDAと言うのがふさわしいのだろう。
そう、ここはCUBA!!
色とりどりコロニアルな建築物、アールデコ調な直線の美しいオールドカー、人々は陽気で、目が合えばお互いに挨拶を交わす。街にはサルサの音が溢れ、そこには、酒やタバコ、人々の会話があり、飲食店の香りも全てがいっしょくたんに五感に訴えかけてくる。ハバナの旧市街。時が止まったかのような世界が広がっている。
スペインの植民地時代から続く、家族を大切にする人間のおおらかさはどことなく、街並みで感じることができる。古き良きなんて言葉はハバナでは当たり前。多くを求めない性格もどことなく共産主義の名残なのであろう。
この国に入った瞬間から60年前の時代へタイムトリップ。そう、59年の革命以前の遺産を今に多く残し、継承している国、それがキューバ。
街中で換金を済ませた私は、サルサの音につられて老舗のレストラン ラ・ボデギータ・デル・メディオへ。ここは友達のおじさんが経営する郷土料理が味わえるお店だ。ここに来るライブバンドも街中のミュージシャンもそうだが、演奏のレベルが高い。そこには教育が無料で受けられるキューバの共産主義という環境が大いに寄与していると言える。特に芸術に関する教育は欧米諸国に引けを取らない熱の入れようなのである。
Havanaの人達は夕方になると、「マレコン」へ行く。マレコンは旧市街から新市街へ続く海岸線のことで、革命以前に建てられたHavanaの栄華を夕陽ともに眺めることができる。Havana港を海賊から守っていたモロ要塞に夕陽が沈んでいく。人々はそこで夕涼みをしながら談笑をする。そこにも音は溢れサルサを踊っている人もいれば、楽器を演奏している人もいる。人々の憩いの場所なのだ。女性同士、男性同士というよりはやはり男女で話している姿をよく見かける。トワイライトの光の中で愛を語らっているのだろうか。その雰囲気がとてもおおらかで素敵だ。
滞在しているホテルは、旧国会議事堂キャピトリオに面したセンスのいい調度品でまとめられたサラトガという歴史あるホテル。その豪華絢爛な内装は革命前の雰囲気を今に呼び覚ました印象を受ける。このホテルのお気に入りは中屋上にある隠れ家的なカフェ。特に夜は昼間の喧騒を忘れさせてくれるプライベートな時間と心地の良い風がほどよく心を満たしてくれる。
彼女に再会したのもこのカフェだ。一人、薄い月の明かりが反射するプールサイドでカクテルを傾けていた。真珠のような光を放つ薄いピンクゴールドのナイトドレスはあたかも月の光に溶け込んだかのような美しさだった。思わずLINDA!!と発する口元を見て、LINDOSと返してくれた。
「彼女はこれお酒に見える?」と問うと「実はジュースなの」と人懐こい表情で続けざまに言った。
どうやら彼女はキューバの国立バレエ団出身で現在は英国のロイヤルバレエ団に所属するバレエダンサーらしい。どうりで纏う空気感の凛としていることか。
鍛えられた体に沿うように映えるドレス。彼女の女性らしい曲線をより素敵に見せているドレスはもちろんシルク。夜でも昼でもリラックスしたい日は大抵、シルクを身にまとうのだと言う。そうすることでカラダも美しく、心も穏やかになっていくそうなのだ。ショーツはいつでもシルクなのと嬉しそうに話す彼女の横顔は国の貧しさから勝ち抜いた強さがもたらした、女性らしく生活する喜びに満ちていた。身振り手振りで熱心に話す彼女に広場の大きな時計が時間を告げた。「レッスンがあるのを忘れてた」と慌てた彼女は美しくドレープするゴールドのドレスを揺らし、軽く頬にキスをして部屋に戻っていった。ぼんやりと大きく開いた背中に垂れる黒髪と同調するかのように揺れるドレス、その美しいラインの後ろ姿に見とれながらラム酒が喉を通っていくのを感じ、月夜を見上げた。
翌朝起きるとクロークで「明後日、本番なの。ガルシア・ロルカで待ってるわ」という伝言を渡された。できる限りのおしゃれを求めて街へ繰り出したが、ようやく見つけたモノといえば、シルクのタイとサスペンダー付きのスラックスだった。シャツは持ってきたものを使えばいいとして、おおよそ紳士な装いを用意するのに丸一日費やした。それでもマレコンでビールを片手に、海風に乗った人々のおしゃべりを聞きながら、夜はバーで時間を費やした。
次の日ガルシア・ロルカ劇場に初めて入った。天井は高く、内装はとてもゴージャス。どこか古めかしいレトロな感じがまた鼓動を高ぶらせた。周りにはおしゃれに着飾った地元の人、特に女性は美しい色のドレスをここぞとばかりに着飾った。多くの客は開演までの時間を楽しみに誰かれ構わず会話をしている。お話好きで人懐っこい国民性を表している。開演を知らせるブザーと共に席に着くと目の前の幕が開いた。演目は「ジゼル」。凱旋を果たした彼女はどうやらプリンシパルのようだ。ひときわ輝く彼女。多くの人が流れる曲に合わせてからだを揺らしながら口ずさんでいる。会場の興奮は目にも見えそうな勢いで渦を巻き、その真ん中で彼女が踊っていた。大勢の人が前のめりになるほど美しく、華麗な表現に圧倒された。腕のしなり、指先のニュアンス、力強く舞う脚力にそれを支えるつま先の安定感。人間が動物という範疇の中で最も美しい存在なのではないかと思わせる美しさであった。気がつくとあっという間に演目は終焉、それぞれに着飾った人たちが立ち上がってのスタンディングオベーションはとても胸に響いた。彼女も目に涙をたくさん溜め、大きく手を振った。
会場は多くの人の興奮で包まれ、気持ちのいい風が興奮の群衆をゆっくりと冷ましていった。
ホテルに戻った私はシャワーを済ませるとあの中屋上のカフェに居た。そこには美しく光る月を照らすプールと心地よい空間が広がっていた。香水の原料にも使われる「マリポーサ」。その花束を持って現れたのは先ほどまで喜怒哀を最高に昂ぶらせて、あたかも動物が乗り移ったかのように舞っていた、彼女だ。
白いマリポーサがとても似合うパールホワイトのロングシャツドレスに薄いグリーンのLingerieを覗かせた出で立ちで香りと共に現れた。「花束嬉しい」と言って横に座ると今日の興奮を話し始めた。彼女の話を聞きながら、美しく照らされたシルクの艶感に同調する彼女の肌を眺めていると先ほどの劇場での興奮がだんだんと甦ってきた。彼女の動きひとつひとつに魅了されたこと。不思議と身につけていた衣装までもが彼女の意思として動いていたのではと見間違うくらい、細部までもが美しかった。チュチュからシルクのドレスに着替えた彼女が動くその躍動の様を見たくなった私は「マレコン」に彼女を誘った。
そこからの記憶は曖昧ではあるのだが、人気のなくなった大通りを大声で喋って踊りながら歩く彼女の後ろ姿をぼんやりと眺め、月夜に照らされたマレコンの海風を感じながら談笑したに違いない。シルクドレスと共に艶やかに揺れ動く彼女の四肢の美しさ、柔らかくハリのあるカラダをドレスと共に撫でた感触はとても滑らかなものだった。
すっかりと太陽の登りきった旧市街の街並みを窓から眺めながら、物思いに耽る。LINDA!! 美しく輝く芯の強さを持ったこの国の女性にふさわしい言葉。その言葉からあらゆる出会いは始まっていくのだろう。